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Bookpostオンライン読書ログ

2019年07月

アントニオ・タブッキ「供述によるとペレイラは……」(白水社, 2000) 8585f2c1 | 7日前

ダレル・ダフィー「巨大銀行はなぜ破綻したのか」(NTT出版, 2011) bcfaa6ba | 9日前

ウィリアム・サローヤン「ヒューマン・コメディ」(光文社, 2017) bcfaa6ba | 9日前

マロリーが勧めていたので読んだ本。とても面白かった!

人生の闇や世界の不条理を織り交ぜながら、それでも明るく暖かい話に仕上がっている。この光文社バージョンは線画の挿絵がたくさん挟み込まれているんだけど(筑摩書房バージョンには無かったはず)、やっぱりユリシーズはかわいいね。電信士のグローガンさんも印象に残った。私も年をとったらグローガンさんみたいになるんだろうか。

上橋菜穂子「闇の守り人」(新潮社, 2007) bcfaa6ba | 12日前

ポール・ギャリコ「雪のひとひら」(新潮社, 1997) bcfaa6ba | 15日前

ああ、この人は物語を描くのが本当にうまいなあ。これだけ短い作品なのに、読後感は長編を読みきったかのようだ。これまで何となく手に取らなかったのが悔やまれる。前に読んだ、この人の「シャボン玉ピストル大騒動」もよかった。また今度は別の作品を読んでみよう。

エリ・ヴィーゼル「夜」(みすず書房, 2010) bcfaa6ba | 15日前

著者はホロコーストの生存者。1944年の5月にアウシュビッツに移送され、1945年の解放まで生き延びた。著者が16歳の時のことだった。

前に読んだ『これが人間か』がフルカラー映画だとするなら、ヴィーゼルのこの本はモノクロ映画に喩えられると思う。レーヴィの作品は、強制収容所の悲惨で陰鬱な世界を描きながら、それでいてほとばしるような人間の精神の発露があった。対して、ヴィーゼルの作品では、人間の魂は隠れていて、ごくささやかな描写に感じられる脈動として表現されている。これを踏まえると、この本の「夜」という題名は、この上なく適切だと思う。

この本のもう一つ興味深い部分は、アウシュビッツの撤収に際して、収容所を立ち去った人々のその後を読むことができることだ。レーヴィは病気のために収容所の病棟に取り残されたので、ドイツ軍の撤退命令に従った撤収組がその後どうなったのかは、彼の本では未解決の謎として残されていた。その白紙をヴィーゼルは埋めてくれる。その運命は、見捨てられてアウシュビッツに放棄された病人たちのそれよりも、はるかに悲惨なものだった。

2019年06月

アーリャ・ラフマーノヴァ「あるミルク売りの日記」(北樹出版, 2001) 6f8283b4 | 21日前

アンドリュー・トビアス「トビアスが教える投資ガイドブック」(パンローリング, 2002) 6f8283b4 | 21日前

この本は前に大阪の中之島図書館で読んだ本だった。原題は「The Only Investment Guide You'll Ever Need」。ごく普通の人がどのように資産を運用すべきかを解説する面白い手引きになっている。

この本の一番面白くて有益な部分は「いかに元手の貯蓄を貯めるか」を論じたところだと思う。具体的には、収支改善を考えるには限界税率を考える必要があること(例えば、限界税率が50%だとすると、10万円手取りを増やすのに20万円必要になる。このため収入を上げて収支を改善しようとするのは効率が悪い)、不要なローンは返済すべきこと、まとめ買いは有効な支出の削減策になること、独身なら生命保険の類は不要であること、などなどが論じられている。

ただ、この部分で上げられているまとめ買いのリターン計算はおかしいと思う。付録により詳しい解説が載っているけど、やっぱり釈然としない。作者の言い分によれば、1本1000円のワインがあったとして、12本まとめ買いで1割引きになる場合、毎週ワインを1本消費する家庭を想定した時の節約リターンは、5200円 ÷ (10800円 - 1000円) = 54% になるという(つまり、年間5200円の節約分を、まとめ買いに必要な追加費用9800円で割っている)。この理屈だと、リスクフリーで年率50%以上を稼げる超優良な投資ということになる。

でもここで、隣の店を見てみると、同じワインが900円で売られているのを見つけたとする。この場合、年間の節約額は変わらず5200円だけど、隣の店で買うだけなので追加の資本投下が必要ない。このため、上の計算式にあてはめると、隣の店で買った時の投資リターンは5200円÷0円で、無限大に発散してしまう(!) こういうナンセンスな結果が出るのは、支出削減策の多くは資本投下とはリンクしていないからだと思う。要するに、投下した資本を基準に節約額を測るのは意味をなさないことが多いのだ。

桑島巌「赤い罠」(日本医事新報社, 2016) 6f6e96b1 | 24日前

マルサス「人口論」(光文社, 2011) ab386bac | 29日前

マルサスの主張の核心は「食料生産は線形にしか増えないが、人口は指数的に増えていくので、貧困を解決するのは難しい」というもの。後書きの大学の人が憎悪をたぎらせてマルサスを罵っているのが印象に残った。

あと、この本を読んでいて気がついたのは、現代の一見目新しい議論は実は数百年前からある議論の焼き直しだということだ。コンドルセやゴドウィンは、言ってみれば現代のトランスヒューマニスト(カーツワイルに代表される、科学革命の進展で人間は不死になると考えている人たち)だと思う。いま当時の議論を振り返って見ると、目に見えている変化から未来を外挿して大風呂敷を広げることの難しさを感じる。

神林長平「敵は海賊・短篇版」(早川書房, 2009) ab386bac | 29日前

スティーヴン・キング「ミスター・メルセデス」(文藝春秋, 2016) ab386bac | 29日前

さすがスティーヴン・キングだ、とうならされる作品。求職フェアに並ぶ失職者の列をベンツで蹂躙した殺人鬼「メルセデス・キラー」を、退職刑事が追跡するという筋立てのサスペンス。コンピューターに関する描写は職業柄ちょっと笑ってしまうのだけど、でも物語としてはしっかり良くできていて面白かった。

橘玲「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」(ダイヤモンド社, 2013) ab386bac | 29日前

著者に訴えたいメッセージがあることを感じる一冊だった。主張が正しいかどうかは、俺には知識が足りなくて判定不能。

こういう「国家財政は崩壊する」という類の主張を読んでいて思うのだけど、1945年の終戦直後、日本はまさに破綻国家だったと思うのだけど(都市は焼け野原で、若い男性が損耗により人口ピラミッドから削ぎ落とされていて、しかも国家財政は破綻していた...)、当時の人は先行きをどう考えていたんだろうね。その時と比較すれば、今は比較にならないぐらいマシな状態だと思うのだけど、時代の精神はとかく疲弊しているように見える。メッセージを要約するなら「私たちは年老いた。財政は破綻の縁にある。先行きは暗い」だ。

こうなったのはなぜだろう?悲観的であれ何であれ、人間の知恵で未来を見通せると考えるのは(クセノフォンのソクラテスの言葉をかりるなら)神がかりの狂気に陥ってると思わなくもないのだけど。

2019年05月

畠中恵「ねこのばば」(新潮社, 2004) 166bfcb | 54日前

作者になまじ腕があるのですんなり読めてしまうのだけど、これ実は全部同じ話なのでは?

実際、収録されている4つの作品は(かなり意識的に)同じ物語の枠を使って作られている。謎が持ち込まれて、若旦那が手代の助けを借りつつ解決する、というのがその枠だ。このテンプレを使い回しているのは良いとしても、びっくりしたことに、個々のエピソードを通じて主要な登場人物は少しも成長しない。若旦那は病弱なままだし、手代は過保護なままだ。この関係に何か変化が起こることもない。というより、物語が始まるたびに、何とも律儀に設定がスタート地点に巻き戻されてしまうので、読み進めても読み進めても何だか同じ物語のように思えてくる。

スピーロス マクリダキス, スティーブン C. フィールライト「計画策定と意思決定のための予測手法入門」(同友館, 1995) 166bfcb | 57日前

この本の面白い知見として、モデルを複雑にしても必ずしも精度は上がらないそうな。精密なモデルを立ててパラメータをゴリゴリ推定するよりも、何も考えずに移動平均をとって季節性を補正するだけの方が精度が良かったりするとのこと。

リチャード・ブックステーバー「市場リスク 暴落は必然か」(日経BP社, 2008) 166bfcb | 58日前

とても面白い本。この本の核心は、ずばり人間の知性の限界だ。一見創造性に富む高度な金融技術が、どのようにして世界を破壊するのか。また、いかに人間がたやすくシステムの構造的な欠陥に盲目になってしまうのか。

本書の冒頭で、著者は、先進国の実体経済はますます安定しているのに、金融市場はますます不安定になっていると指摘している。経済セクターは多様化した。天候などのリスクファクターはかつてほどの影響力を持たなくなっている。その結果、GDPの変動率は年を追うごとに小さくなっている。一方で、金融市場の不安定さは解消される傾向にない。株式市場のボラティリティはむしろ大きくなっている。大規模な金融危機は定期的に起きているし、その影響は回を重ねるごとに破壊的になっている(ちなみにこの本の原著はサブプライム危機前に出版されている)。

著者によれば、これは金融システムに深刻な不具合があることの明確な証拠である。そして、その不具合の核心はシステムの複雑さにある。私たちは高度な数学を駆使して金融工学を積み重ねることで、金融市場を安定させようとしてきた。しかし、金融市場の不安定はまさにこの努力の結果として生まれている。例えば、1987年のブラックマンデーは、ダイナミックなヘッジによってリターンを安定化させようとする、金融工学の発明によって直接引き起こされた。言い換えると、金融市場の不安定さは、私たちのアプローチに内在する本質的な欠陥のあらわれである。

この著者の主張はとても説得力があると思う。仮に、この主張に同意しない人でも、この本で無数に展開されるエピソードを読むだけでとても楽しいのは間違いないと思う。例えば、LTCMが1998年のロシア債務危機の直撃を受けたのは、パートナーのハガニがロクなモデルも持たずに、自分の直感を頼りにロシア債に膨大な掛金を積み上げていたからだという。この内部事情はLTCMの「金融工学の牙城」というイメージからすると衝撃的だ。他方で、ソロモンが直撃を避けられたのは、ワイルとダイモンが"ロシアストーリー"を信じずに、まさに危機の直前にエクスポージャの圧縮を直々に指示していたかららしい(この本の記述を信じるなら、JPMCのジェイミー・ダイモンは極めて例外的な人物だ)。

ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」(岩波書店, 1992) 166bfcb | 58日前

共産主義者やアナキズム主義者の描く社会は、どこか宗教的な色彩を帯びていると思う。オーウェルが描写する、革命後のカタロニアの光景はちょうど(神に関する部分を別のナニカに置き換えれば)この一節がそのまま当てはまる。

> 信者たちは皆一つになって、すべての物を共有にし、財産や持ち物を売り、おのおのの必要に応じて、皆がそれを分け合った。そして、毎日ひたすら心を一つにして神殿に参り、家ごとに集まってパンを裂き、喜びと真心をもって一緒に食事をし、神を賛美していたので、民衆全体から好意を寄せられた。

人類の経験に照らすと、結局こういう理想郷が世界で実現することはないように思われる。その理由はおそらく、ひとえに私たちが人間だからだ。

神林長平「宇宙探査機 迷惑一番」(早川書房, 2002) 166bfcb | 70日前

アンドリュー・ロス・ソーキン「リーマンショック・コンフィデンシャル」(早川書房, 2014) 166bfcb | 70日前

神西亜樹「坂東蛍子、日常に飽き飽き」(新潮社, 2014) 166bfcb | 71日前

面白い小説だった。特筆すべきは作者の筆の勢いで、宇宙人が故郷の存亡をかけて学園に乗り込むとか、ウサギのぬいぐるみが言葉を話す(しかもこのウサギ、なかなかの紳士である)とかいう荒唐無稽な設定が畳み掛けられるように放り込まれていく。そのドタバタした感じが、読んでいて楽しかった。

小川洋子「妊娠カレンダー」(文藝春秋, 1991) 166bfcb | 75日前

小川洋子の小説はなぜこんなに面白いんだろう。描かれている光景はそんなに劇的なものではないし、仮に何か劇的なことが起こっても淡々と語られるだけのことが多い。実際、この表題作で起きていることは、客観的に見れば、単に妊娠した姉のために妹がグレープフルーツのジャムをひたすら作ってあげているだけ...というものだ。

でも、何気ないやりとりから感じる、姉のそこはかとない感じの悪さと、それに対して妹が抱く穏やかな反感が何とも言えない面白さを生み出している。なんだろう、物語のパースが歪んでいるのが面白さの根源なんだろうか。ちょっとこれは文学的な天才としか言いようがない。

カズオ・イシグロ「浮世の画家」(早川書房, 2006) 166bfcb | 76日前

カズオ・イシグロは本当に不思議な作家だ。彼の小説は基本的に一人称で進み、主人公が過去の思い出を取りとめもなく語っているだけのように見える。最初の数ページを読んだところでは。でも、この過去について語るという行為が、その物語られる事実としての過去ではなく、じつは話し手の主人公の姿に光をあてていることが、読み進めるにつれて段々と明らかになってくる。

フィリップ・リーヴ「移動都市」(東京創元社, 2006) 166bfcb | 76日前

ジリアン・テット「愚者の黄金」(日本経済新聞出版社, 2009) 166bfcb | 76日前

2007年のサブプライム危機を扱った本。この本はCDO/CDSという金融技術に焦点を当てている。

* CDS (クレジットデフォルトスワップ) は債務不履行に備えた一種の保険で、一定の保険料を支払う代わりに、債権のデフォルトがあった場合に補償を受けられる。このCDSが最初に適用されたのは、法人向け融資の分野だった。借り手の企業が信用力のある大企業だと、貸出利率が低い上に、額面だけがいたずらに大きく、金融機関にとって非常に取り回しが悪かった。CDSが発明された当初の目的は、融資のリスクを第三者に引き取ってもらうことで、債権をバランスシートから外すことにあった。

* CDO (コラテライズドデットオブリゲーション) は住宅ローンの二次派生物だ。住宅ローンの資金の出所は大きく二種類あって、一つは伝統的な銀行の金庫、もう一つはモーゲージ債に投資する投資家の資金だ。後者の場合、住宅ローンはまず発行体に買い上げられて、お茶のように均質な証券にブレンドされる(これをMBS/不動産担保証券と呼ぶ)。この時、証券が(これまたお茶のように)上等品・中等品・下等品といった品質ごとの塊に切り分けて販売されることがある。上等品はリスクが低いように切り出されるので人気が高いが、下等品は投資適格ぎりぎりの水準で販売されるので人気がなく在庫が余りがちである。そこで、MBSから下等品を寄せ集めて、さらに上澄みを取り出すことで上等品並の品質の製品を生み出せないか...という発想で生まれたのがCDOだ。なぜ下級品の寄せ集めから上等品を生み出せるかというと、それは債権間の相関関係に求められる。完璧な正の相関をもつ債権でない限り、二つを合わせて不履行を引き受ける部分を切り出すことで、よりリスクの少ない部分を作り出すことができるのだ。

* CDOが証券会社に損失を与えた経路は二つある。一つは、原材料の住宅ローン/MBSの在庫が毀損したこと。もう一つは、各証券会社がCDOの最優良部分(あまりに安全すぎて売るには利率が低すぎる部分)を抱え込んでいたことだ。シティは数兆円分のスーパーシニア債を抱え込んでいたために大きな評価損を計上せざるを得なかった。AIGはこの最優良部分に対する保険を安価に売っていたので、破綻のリスクを抱え込むことになった。

* 銀行が自己資本規制を迂回するために使った一つの手段は、SIVや導管体とよばれる仕組みだった。これは銀行とは資本連結しないように設計された投資主体で、資金は主にCP市場の短期負債でまかなっていた。この仕組みは短期的には膨大な利益をもたらしたが、2007年後半にCP市場の流動性が蒸発したときに壊滅することになる。

* 『世紀の空売り』で、リップマンが「デュッセルドルフ」と呼んでいたのは、ドイツ産業銀行 (IKB) のことだったんだろうか? この本によると、IKBは2超円規模のSIVを所有していて、2006年前後にCDOを買い漁っていたらしい。

グレッグ・イーガン「ビットプレイヤー」(早川書房, 2019) 166bfcb | 76日前

AIにも人間と同様に権利は与られるべきだろうか?イーガンはこの問いに明確に「イエス」と答える作家だ。そもそも人権という権利の根拠が理性の所有に求められるならば、計算機の上で実行されるプログラムも同じ理性を持ちうる。イーガンの主張によれば、そこに人間としての尊厳を認めない理由は何もなく、むしろそれを認めないのは倫理にもとるというわけだ。

このAIの権利の思想は一般に -- イーガンの読者の間ですら -- 受け入れられているとは言い難い。しかし、イーガンは作品ごとに手を変え品を変え、この主張を支持する根拠を示していく。本作のビットプレイヤーでは、プログラム化された人々が、仮想ゲームの端役として配置され、原始的な生活を強いられる。この主人公たちの苦闘を通じて「知性を持った存在がこんな風に扱われて良いのか?」という疑問が提示される構成になっている。あるいは、この作品は現代の煉獄を描いた作品だと言ってもいいのかもしれない。もし、あなたがAIは人権を持たないと主張するなら、いつか誰かにフリー素材として再利用されて、不毛の大地を耕すハメになるなるかもしれないよ...と。

スーザン・プライス「500年のトンネル」(東京創元社, 2003) 166bfcb | 79日前

小川洋子「博士の愛した数式」(新潮社, 2005) 166bfcb | 81日前

2019年04月

丸山久美「カタルーニャ地方の家庭料理」(誠文堂新光社, 2014) 166bfcb | 91日前

プリーモ・レーヴィ「これが人間か」(朝日新聞社, 2017) 166bfcb | 91日前

> 「一番ひどい時は過ぎた」とがった肩を太陽に向けて、ツィーグラーが言う。私たちのわきには、ギリシア人のグループがいる。あの素晴らしく、恐ろしい、テッサロニキのユダヤ人たちだ。したたかで、賢く、泥棒で、残忍で、団結心が強く、生き延びる決意をかたくなに持ちつづけ、生き抜く戦いではひどく無情な敵になる。厨房でも作業場でも優位を占め、ポーランド人からは恐れられ、ドイツ人も一目置いているあのギリシア人たちだ。収容所に入って3年目だが、収容所とは何か、彼らほどよく知っているものはいない。今は、肩を組んで体を寄せ、輪を作り、果てしなく続く単調な詠歌の一つを歌っている。

> その中のフェリーチョは、私の知り合いだ。「来年は家で!」私にこう叫んで、付け加える。「煙突から家に!」(p89)

ゴードン・S・ウッド「ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる」(慶應義塾大学出版会, 2010) 166bfcb | 91日前

ベンジャミン・フランクリンの伝記研究書。あの有名な自伝の裏側に、本には書かれない栄光と挫折があったことが記されている。著者はアメリカの歴史を研究している学者で、本の前文によると、こういう独立の祖父たちの裏側を探る研究は歴史学の一つの研究ジャンルになっているらしい。

* フランクリンはもともとアメリカの独立に賛成しておらず、むしろ晩年まではかなり明確に王党派に属していた。実際に、フランクリンはアメリカをイギリス王家の直轄領にしようとする(結局は失敗に終わった)運動に人生の一時期を注いでいる。彼が独立派に加担するのは、この運動が挫折した後のことになる。

* イギリスに拠点を移した後は、妻娘を邪険に扱っていたことが記されている。働かなくても暮らしていけるだけの富を蓄えたあと、フランクリンはロンドンに生活の拠点を移すが、妻と娘はイギリスに連れてこずに故郷のペンシルヴァニアに放置していたらしい。これはちょっとショックだ。どうもフランクリンはロンドン側で召使いとともに一種の家族関係を築いていて、故郷の家族に対する思い入れがかなり薄れてしまっていたらしい。

* 独立直後は、フランクリンの米国内での評価はそれほど高いものではなかった。国外(とくにフランス)での評価は非常に高かったものの、アメリカでは活動費用の清算すらしてもらえず四苦八苦している。自分の業績を訴える文書を書いて送ったりしているが、独立後に権力を握ったメンバーからは等閑視され、死に際しても献辞をもらえなかったそうな。これが変わるのは、中流階級が勃興し、ベンジャミン・フランクリンが貧しい身分から身を起こす「セルフメイドマン」のロールモデルとなってからのことになる。

クリントン・ロメシャ「レッド・プラトーン 14時間の死闘」(早川書房, 2017) 166bfcb | 98日前

アフガニスタン戦争の「キーティングの戦い」を記録した回想録。著者は米陸軍の二等軍曹で、キーティング前哨の守備隊の一員だった。著者によると、そもそもキーティング前哨は根本的に設計が悪く、近くの基地から離れすぎている上に、地形的にも周囲を高地に囲まれた窪地にあったそうな。かつ近々撤退の計画があったので整備もおざなりだった(整備不足が祟って、クレイモア地雷が肝心な時に起動しなかったりしている)。この前哨に対して、潤沢な装備を備えた数百名規模のタリバン部隊が強襲をしかけてきた...というのがキーティングの戦いの筋立てとなる。

戦闘に参加したタリバン兵は相当練度が高かったらしく、最新の防衛設備を備えているはずの米軍が後半までは一方的に攻勢を受けている。ただ、結末だけ見ると、タリバンは300-600名の戦士を動員して、うち100-150人が死亡した一方で、米軍の守備隊はわずか50名で、うち8人が死んだに過ぎない(他にアフガン兵が48名居たが、実質的に戦力になってない。持ち場を捨てて逃げ回っているばかりで「お前たちの故国を守れ」と一喝されている)。要するに、いかに地形的に有利であっても、航空支援のある、要塞化された拠点を制圧するのは非常に難しいのだろう。

あと、本書で紹介されている、この本は読んでみたい >「1958年にJ・グレン・グレイという兵士が、戦闘状況の兵士について『戦場の哲学者--戦争ではなぜ平気が人が殺せるのか』という本を書いている」

メグ・ローゾフ「ジャストインケース」(理論社, 2009) b0aa1761 | 104日前

2006年のカーネギー賞受賞作でとても高く評価されているみたいなんだけど、まったく俺には合わなかった。ティーンエイジャー版の「スキャナーダークリー」といった趣きの話。ただ、この作品の主人公はドラッグをやってないのに自己崩壊してしまう。

2019年03月

マーク・オーウェン, ケヴィン・マウラー「アメリカ最強の特殊戦闘部隊 (DEVGRU) が「国家の敵」を倒すまで」(講談社, 2014) 166bfcb | 113日前

2011年のビンラディン暗殺作戦に参加した特殊部隊員の手記。この作戦の実行を担当したのが海軍特殊部隊のDEVGRU(SEAL6の後身)で、著者は作戦当時ここに所属していた。

* まず読んでいて気がつくのは、現代の軍隊では完全に「作戦を実行する前線部隊」と「作戦を立てる司令部」が全く別の組織になっているということだ。前線部隊の一員の著者から見える光景は「あちこちに派遣されては特定のミッションをクリアして帰還する」という割と脈絡のないエピソードの連続になる。「この作戦は戦略全体から見るとこういう位置づけにある」という見通しのよさは殆ど無くて、この本でも「自分たちは道具だ」という表現が見られる。

* 個人的に面白かったのは著者が時々こぼす素朴な感想だった。例えば、作戦完了後の祝賀会で出会ったジョーバイデンの印象: 「話のあと、彼らと何枚か写真を撮った。バイデンが、だれもオチがわからないような冗談らしきものを連発していた。いい人そうだが、クリスマスの夕食時に酔っぱらった、どこかのオジサンみたいだ」 (p291)

* ビン・ラディンについて。「部屋から出るさいに、ドアの上に渡した棚に気づいた。おれたちが3階にたどり着いたとき、ビンラディンが立っていた場所の真上だ。おれは手で棚の上を探り、2挺の銃を見つけた。AK-47とホルスターに入ったマカロフの拳銃だ。2挺とも降ろして、弾倉を抜いたが、どちらも空だった。奴は自分の身を守ろうとさえしていなかった。何十年も前から、自分の信奉者には『自爆チョッキを着ろ』といったり、『飛行機でビルに突っ込め』などと命じたりしてきたというのに、自分は武器さえ取らなかったのだ。ほかの派遣でも、よくこういう場面に出くわした。"食物連鎖"の上にいるターゲットにかぎって、実態は女々しいものだ。総じて指導者の戦う意思は希薄だ。爆薬を体に巻きつけて自爆するのは、決まって影響を受けやすい若者なのだ。ヘリの音は聞こえていたはずだから、ビンラディンは俺たちが来ることを知っていたろう。離れ家にいたアフメド・アル・クウェイティは自分と家族を守ろうとしただけマシだ。ビンラディンには手下たちより準備する時間があった。だが、奴は何もしなかった。自分のお告げを信じていたのか?自分があおってきた戦いに自分の身を投じる気があったのか?自分では戦いもしないのに、『死んでくれ』といって人を送り出すのは信義にもとる」(p250)

* 名案病について。「おれたちは"名案病患者"とも戦わなければならなかった。どんな作戦でも上の連中が時間を持て余すようになると、そんな患者が増えてくる。非現実的なシナリオを無理やり想定するようになるのだ。」「作戦計画立案者が細かいことに目を向けると、そんなことになるわけだ。CIAも携帯電話の電波を遮断する30キロ弱の箱型機械を持っていくように要請してきた。それでなくても、重量が問題になっていたから、その"名案"はすぐに却下された。これまでの"闘病"の時間をすべて返してもらえたら、寿命が数年延びるかもしれない」(p192)

ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝」(東京創元社, 2010) 166bfcb | 114日前

第二次世界大戦後を舞台とした歴史改変小説。この作品では、西部戦線でナチスとイギリスが講和条約を結んだということになっている。これを主導したのが貴族院議員を核とする政治派閥<ファージングセット>で、チャーチルをはじめとする好戦派は政治的に敗北したことになっている。この作品の比較の対象として、フィリップ・K・ディックの「高い城の男」を挙げている人をよく見るのだけど、個人的には舞台設定の点でも人物造型の点でも、カズオ・イシグロの「日の名残り」の方が近いと思う。イシグロの作品も、第二次世界大戦でナチス融和主義の側に立った貴族の居城を舞台とする話だった。

ただ今回の「英雄たちの朝」は、日の名残りよりもはるかに格が落ちる。俺が読んだ感想では、ちょっと前に読んだサリー・ガードナーの「マザーランドの月」と比べても遠く及ばないと思う。物語の主軸となる殺人事件の顛末にまったく現実味がないという問題は百歩譲ったとしても、その他の舞台造型、とくにナチスの扱いと同性愛の扱いが余りにも無邪気過ぎるよ。「日の名残り」のダーリントン卿は確かにナチ親派だったが、そこには人間的な苦悩があった。でも、今回の作品にはそういった類の深みがまったくない。このあたりの作りの雑さは本当に残念だった。

浜内千波「フタさえあれば!すごくおいしい」(日本文芸社, 2010) 166bfcb | 116日前

普通のフライパンにフタを組み合わせると、簡単に蒸し料理や煮込み料理が作れるよという本。冒頭の「フタを駆使した調理方が一番よいものである、と私は確信しています」という力強い宣言にひかれて手に取った。実際に読んでみると、確かに調理法としてよく練られていてとても参考になった。こんな感じの料理が掲載されている:

・ジャガイモとトマトの蒸し煮 ... フライパンにみじん切りにした玉ねぎと輪切りにしたジャガイモとトマトを入れる。上からオリーブ油をかけて、フタを閉じて中火で20分加熱する。火が通ったことを確認して、粉チーズをふりかければ完成。

・白菜と豚挽き肉のトロトロ煮 ... フライパンに豚挽き肉を入れて、その上に千切りにした白菜としょうがを載せる。上から塩をふってから、蓋を閉めて中火で加熱する。途中で2〜3回混ぜながら20分ほど加熱すれば完成。

あと面白かったのは「最初にフライパンで肉に焼き目を付けておいて、それから野菜を肉の下に敷いて全体をフタで蒸し焼きにする」というテクニック。とくに説明はないけど、多分こうすると肉の旨味を野菜にうつしながら全体に満遍なく火を通せるんだと思う。

フランク・ハーバート「デューン砂の惑星」(早川書房, 2016) 166bfcb | 117日前

この小説の一つのキーワードは「陰謀」だと思う。この小説の中では、誰もが周囲の人間に対して謀略を抱いている。それも、他人を蹴落とすための謀略を。その仕事、つまり自分の邪魔になるような人間を先んじて殺すことに登場人物たちは生涯を捧げている。その悪夢は、他人の悪意を見過ごして、暗殺者の手にかかって死ぬことだ。膨れ上がった富と身分でむしろ不安はかきたてられて、疑心暗鬼に苛まれている。どうしてそこまで家柄や爵位が重要なのだろう。毒物検知器の助けを借りないと水の一杯も飲めないというのに。

キティ・ファーガソン「ピュタゴラスの音楽」(白水社, 2011) 166bfcb | 123日前

古代ギリシャの哲学者のピュタゴラスを扱った本。彼は数学を崇拝する秘密教団を築き上げて、一時はイタリアの植民都市クロトンを支配したのだけど、最終的に反感を持つ市民たちの暴動で殺されたらしい。彼の直接の教えは時代の流れで失われてしまったのだけど(これは秘密教団という組織の性質が大きい)、その教団の哲学はプラトンを通じて、西洋思想に大きな影響を残した...というのが本書の主題。

ジョン・キーガン, リチャード・ホームズ, ジョン・ガウ「戦いの世界史」(原書房, 2014) 166bfcb | 123日前

クセノポンのつながりで手に取った。この本の最大の特徴は、戦争にまつわるトピックごとに章を分けて歴史を辿っている点。例えば、「歩兵」というトピックなら、古代ギリシャの重曹歩兵から現代の米軍の機械化された兵士までの2500年間で何が変わって、何が本質的に変わって無いのかを示してくれる。この視点は新鮮で、とても面白く読めた。

・兵站。つい最近まで軍隊は、兵隊を養うための食料の補給経路を持っておらず、必要なものは戦地で"調達"していた。クセノポンの『アナバシス』の中で、ギリシャ傭兵部隊が「食料がなくなったから近くの村を襲おう」と気軽に襲撃しているのはこれ。現地調達がなくなるのは第一次世界大戦ごろのことで、機械化によって前線部隊を支えるだけの補給能力が備わった後のことになる。

・指揮官。古代の指揮官は、積極的に前線に立つことで士気を鼓舞した。例えば、アレキサンドロス大王は、イッソスの戦いで、先頭に立ってダレイオス3世に騎兵攻撃を仕掛けた。著者はこのようなスタイルの指揮を「英雄的リーダーシップ」と表現している。これを読んでいて思ったのだけど、小キュロスがクナクサの戦いで早々に頓死したのは、これがうまくいかなかった例だと思われる。

・戦闘精神。前線の兵士たちが自発的に戦闘を放棄してしまう現象が歴史上何度も観察されている。例えば、第一次世界大戦の西部戦線では、1914年のクリスマスに非公式の休戦が発生した。兵士たちが戦闘を止めたのは「兵隊たちがクリスマスに殺し合うなんて真っ当なことじゃないと感じた」からだったという。こういう停戦が発生する正確なプロセスは不明だが、どうもこれは敵の「兵士としての資質」に対して抱く敬意に応じて起こるらしい (p355)

もう一つ面白かったのは、第二次世界大戦が実質的に生産システム同士の戦いだったという指摘。そもそもナチスドイツの生産能力は最盛期ですら米国はおろかロシアにも及んでおらず、国土には資源も乏しいので、枢軸側の敗戦は論理的な帰結だったと見る向きもあるとのこと。例えば、1942年に米陸軍兵站部のブリオン・B・サマーヴィル少将は次のように語ったという。

> ゆくてに横たわる道は、これから起こるであろう戦闘の塵でかすんでいる。この道がどれほど長いのか、誰も知らない。だが、敵は自らとわれわれの力量を誤断したのであるから、道のりは、可能性としてあり得たよりもずっと短くなっている。ヒトラーが自動車の戦争をはじめたということは、まさしくわれわれの領分で彼は戦争しているということにほかならないからだ。ヒトラーがチャリオットを内燃機関に牽かせたとき、あらたな戦線、われわれが熟知している戦線が開かれた。デトロイトである (p308)

ランディ・オルソン「なぜ科学はストーリーを必要としているのか」(慶應義塾出版会, 2018) 166bfcb | 138日前

クセノポン「アナバシス」(岩波書店, 1993) 166bfcb | 138日前

クセノポンは紀元前4世紀の哲学者で、ソクラテスの弟子だった。これは彼の従軍体験を記録した作品で、今から2500年ぐらい前の話...なのだのだけど、内容自体はむちゃくちゃ読みやすくて、まったく歴史の隔たりを感じさせない。古典だからと気構えなくても、冒険ノンフィクションとして楽しく読めた。

さて、物語の発端は、ペルシア王の弟のキュロスが王位を奪おうと反乱を起こしたことで、この反乱軍にクセノポンをふくむギリシャ人部隊も(半ば騙される形で)加わる。反乱軍は最初は順調に進軍し、難なく現在のイラク/イランの国境あたりまで到達するも、肝心の首魁のキュロスがそこで戦死してしまう。反乱の野望も潰えて、敵地に取り残された兵士たちは、はたして故郷に戻ることができるのだろうか...というのが物語の大筋。

俺がこの本を読んでいて思い出したのは、リチャード・アダムスの名作「ウォーターシップダウンのウサギたち」だった。この物語では、ウサギたちが故郷を追われて、いろいろと仲間と知恵をこらしながら新天地を求めて旅をする。このウサギたちの雰囲気は、ああだこうだ作戦を議論しながら故郷にたどり着こうとするクセノポンたちの姿と重なって見える(ちなみに、クセノポンたちは重要な方針は民主主義的に多数決で決めて進めている。この辺は、さすが古代ギリシャだ)。ただ、この「アナバシス」のウサギたちは、通りかかる集落を略奪しながら進むのであんまりかわいくはないのだけど。。。

2019年02月

中谷宇吉郎「雪」(岩波書店, 1994) 166bfcb | 145日前

雪の研究を描いた大衆科学本の古典。廊下の片隅での雪の研究から始まって、人工雪を作るまでの顛末がまとめられている。個人的に面白かったのは、雪の概論を記した前半の二章だった。

・著者は顕微鏡写真の発展はむしろ雪の研究を阻害したかもしれないと指摘している。というのは、本当の雪の結晶は綺麗な六花型だけではなく種々多様の形をしているのだが、「顕微鏡を覗いて見て、美しくないものは写真にとらない。模様的に美しく、しかも平面的なもののみをとる傾向があるために、一般に人々に、雪の結晶がそういうものだと思い込ませるようになったのである」(p48)

・また、江戸時代に雪の先駆的な研究をした土井利位を例に取ってこう述べている: 「道具や器械が揃っていなければ科学的研究が出来ないと思うことそれが科学的精神に反する道であると知らなければならない」(p54)

かつての人々にとって「科学的な態度で解明すれば多くの問題が解決する」というのは偉大な発見であったにちがいない。その頃から考えると、大分科学は進歩したのだけど、反面で科学のまとっていた「偉大さ」は消え去ってしまったように思える。それはなぜだろう。

河盛好蔵「手紙のことば」(河出書房新社, 1989) 166bfcb | 147日前

祖父に手紙を書く参考になるかなと思って手に取ってみた(祖父がメールを使えなくて耳も遠いため)。手紙に関する大きな解説に加えて、この本には有名人たちの手紙が幾つか収録されている。内村鑑三の内村正子(彼の孫とのこと)にあてた手紙は面白くて、彼の飾り気がなくて暖かい人柄が溢れている。

> まーちゃんは其後変わりない乎、寒からふね、毎日心配しているよ、先日写真を送つて貰っつ食堂の壁に張つて眺めているよ、いくらマー公の名を呼んでも返事をしないからイヤになつて了ふよ、ヂーヂーは相変わらず非常に忙しいよ、講堂の改装も八分通りすんだよ、クリスマスから再び開く積りだよ (...)

だけど最も強い印象に残ったのは円谷幸吉の手紙だった。彼は才能のある運動選手で、1964年のオリンピックで銅メダルをとるほどだったが、まさにその才能によって死んだ。

山本正行「カード決済業務のすべて」(金融財政事情研究会, 2012) 166bfcb | 154日前

バートランド・ラッセル「バートランド・ラッセル著作集11 - 西洋哲学史1」(みすず書房, 1969) 166bfcb | 156日前

この本はとても面白かった。歴史的な事実を交えて、それぞれの哲学の持っている意味を解き明かしてくという本。文体は明瞭で、内容も非常にわかりやすく書かれているので、楽しく読めた。哲学の本でここまで明解に書けるのは本当にすごいと思う。

この本は3巻本の1冊目で、タレスからヘラクレイトス、デモクリトスを経て、ソクラテスとその後継者たちまで収録されている。多くのページはプラトンとアリストテレスの分析にあてられているのだけど、個人的にはソクラテス以前の哲学者の分析が面白かった。彼らの主張は、現代の私たちからすると単なる根拠レスな思いつきにも思えるのだけど、ラッセルは彼らの哲学的な努力を高く評価している:

> これまで考察したすべての哲学者たちは、世界を理解しようとする私欲のない努力をしていたのであり、彼らはそれを理解することが、実際そうであるより容易だと考えていた。しかしそのような楽観的態度がなければ、彼らは努力を始める勇気を持たなかったことであろう (p147)

F. J. ラブリュイエール, R. M. ヘルピ「消費者クレジットの世界史」(金融財政事情研究会, 1997) 166bfcb | 156日前

木村衣有子「手紙手帖」(祥伝社, 2005) 166bfcb | 156日前

E. M. ルイス「クレジット・スコアリング入門」(金融財政事情研究会, 1997) 166bfcb | 162日前

クレジットカードの信用スコアの作り方を解説しためずらしい本。著者はFICOスコアのFair, Isaac and Companyに勤めていた人。

・融資は三つのC (性格 - Character, 能力 - Capacity, 担保 - Collateral) で決まるというのは神話だ。与信決定の際に手元にあるのは一定の形式に従った書類だけなので、そこから借り手の性格や能力を推し量ることは難しい。担保については、個人向けの融資だとそもそも無いことが多い。また、「信用力」という単語はよく使われるが、実は明確に定義するのが難しい。まったく同じ意味で使う人がいないため、多くの混乱が生じており、誰もが「自分は良好な信用力がある」と思っている。

・統計ベースのクレジットスコアリングが発明されたのは、クレジットカードの普及により、大量の信用判断をこなす必要が生じたからだった。かつては人間のアナリストが判断していたが、人によって判断基準がマチマチで、また信用リスクの定量化が不可能だった。しかし、クレジットスコアリングは当初はそれほど熱心に受け入れられなかった。最初に推進したのが、数学のバックグラウンドを持つような科学者タイプの人達で、クレジット分野の人々は統計的手法の有用性を疑っていたからだ。

・クレジットスコアリングの核心は、書類に記載された様々な属性情報から、よい口座/不良口座となるオッズを推し量ることだ。これはよい口座と不良口座を1000-1500件ずつ抽出したものに多変量解析を施すことで推定する。この推定結果は、多くの場合、属性ごとに得点を記したスコアリング表という形で運用されている。

2019年01月

セネカ「人生の短さについて」(光文社, 2017) 166bfcb | 174日前

ポール・ミュオロ, マシュー・パディラ「実録サブプライム危機」(日本評論社, 2009) 166bfcb | 177日前

この本は読んでよかった。2007年のサブプライム危機を扱った本の中でも、住宅ローンを組成していたノンバンクに焦点を当てた本。他の類似の書籍には載っていない興味深い内部事情が描かれている。

・ローンを組成する企業は、ローンを持ち込む営業部と、持ち込まれたローンの品質をチェックする審査部の二つに分かれている。多くの会社では、この二つは全く別々の指揮系統に属していて、紙の上では互いにチェックしあう関係にある。しかし、審査そのものは金を生み出さない業務なので、時として社内政治で営業が審査部に勝ってしまうことがある。そうなった場合の結末は悲惨で、その会社は短期的に凄まじい利益をあげた末に、次の景気サイクルの後退期でものの見事に吹き飛ぶことになる。この審査の劣化によるローンの質の低下こそが、2006年のニューセンチュリー破綻の本質的な原因だった -- これとまったく同じ問題が、10年後の日本の地方銀行のスルガ銀行で完璧に複製されることになる。

・メリルリンチのCDOの質が並外れて低かったのは、メリルがサブプライムローン証券化の分野で出遅れ気味で、CEOオニールの指揮のもとで業容拡大を急いでいたからだ。証券側でローンを検査していた人々に対するプレッシャーは強く、「もっと早くやれ。やらなければ首だ」と圧力を常に受けていた。メリルは特にひどく、劣等なローンでも何とか承認に持っていく方法を見つけ出していた (p278)

・ソロモンで不動産担保証券を創設したルー・ラニエーリは遅くとも2006年の段階で、サブプライムCDOの危険性を把握していた。彼は、持ち込まれてくるローンはARMでFICOスコアが低く、最初の住宅購入で、いくつかの審査がスキップされている等などの点を見て「重層的なリスク」があると考えていた。2006年12月のOTS住宅産業サミットで、この懸念を公に表明している。

・バフェットはカントリーワイドの社長のアンジェラ・モジロと知り合いだった。モジロと会う時は、エンバシースイートホテルを必ず指定していた。バフェットはそのホテルの朝食タダ権を持っていたからだ。モジロはバフェットのリンカーンコンチネンタルに乗せてもらったこともある。「車の中は散らかしてあって汚かった」(p170)

ロバート・J・シラー「バブルの正しい防ぎかた」(日本評論社, 2014) 166bfcb | 184日前

ニック・リーソン「マネートレーダー銀行崩壊」(新潮社, 2000) 166bfcb | 189日前

1994年に破綻したベアリングス銀行の話。そもそもベアリングス銀行のトレーディングルームは管理が杜撰で、しょっちゅう顧客の注文の取り違えや処理ミスを起こしていたらしい。このミスを隠蔽するために、架空のアカウントに誤発注を押し込むことが常態化していた。

問題になるのは、架空アカウントの損を穴埋めするために現金を調達する必要があることで、そこで登場したのが...自己勘定でのオプションの販売だった。将来のリスクを引き受ける事で小銭を稼いでいたわけだけど、結局この取引は雪だるま式に膨れ上がっていった。目先の現金を獲得するために取ったポジションそのものが、損失を出し始めていたからだ。この負のサイクルの中で、リーソンは身動きがとれないままズブズブと沈んでいくことになる。損を補填するために更に多くのオプションを売る必要があったが、それが市場の吸収できる量を越えつつあり、しかもポジションが大きすぎて本国の資金移動制約にも引っかかるようになったからだ。

追記:この事件について調べていると、ニック・リーソンのtwitterアカウントが出てきて、日経相場とビットコインについて語っていた。プロフィールによると「ビジネススピーカー」として活躍しているらしい。シュールなことよ。

ポール・スタイルズ「さよならメリルリンチ」(日経BP社, 1999) 166bfcb | 190日前

政府機関を29歳で退職した著者が、新興国市場の債権営業としてウォール街に飛び込んだ体験を描いた本。著者には金融の知識も経験もまったく無かったが、何とか学生時代のコネを利用してメリルリンチに潜り込むことに成功する。ただ、ちょうど飛び込んだ時期に、新興国市場が崩壊を始めていて...。

フィリップ・リーヴ「ラークライト - 伝説の宇宙海賊」(理論社, 2007) 2556654 | 197日前

「アーサー王、ここに眠る」と同じ作者。「アーサー王」から対象年齢はぐっと下がるのだけど、物語としての完成度は本当に高く、大人が読んでも普通に面白い。どんなに破壊的な事が起きても、人が死んだりしないように配慮されているあたり、ちょっとピクサーの映画作品を思い起こさせるかもしれない(とはいっても、人間以外の、サボテン人間だのクモ星人だのはバンバン死ぬんだけど)

登場するキャラクターはどれも魅力的なのだけど、俺の印象に最も残ったのはトカゲ娘のシリッサだった。海賊船 <ソフロニア号> を操る錬金術師。あまりにこのキャラクターに感情移入しすぎて、最後の全員が集まる大団円のハッピーエンドシーンを読みながら「シリッサには何にもないのか?それじゃあ寂し過ぎるだろう!」と思っていた。

デイヴィッド・エディングス「予言の守護者」(早川書房, 2005) 2556654 | 197日前

2018年12月

フィリップ・リーヴ「アーサー王、ここに眠る」(創元ブックランド, 2009) 2556654 | 203日前

すごく面白い話だった。この物語の中では、アーサーは、盗賊まがいの小集団の首領で、短気で粗暴な男にすぎないのだけど、それを、吟遊詩人のミルディン(マーリン)が、物語を創作することで偉大な「アーサー王」を文字通り創造していく。大きなテーマは、物語に宿る、ときに現実をも変えてしまう根源的な魔力と、それでも、物語によってすべてを好きなように操作できるわけではない、という限界だ。

読んだ後に色々と考えていると、物理学者のファインマンのことを思い出した。子供の時は彼の物語が好きだったのだけど、今思い返すと一抹の逡巡を覚える。本当に、彼はああいう人物だったのだろうか? 実際のところ、俺は知らない。というのは、俺がファインマンについて知っている(と思っている)ことは、彼が自分自身について語ったことに由来しているからだ。

ナンシークレス「ベガーズ・イン・スペイン」(早川書房, 2009) 2556654 | 203日前

2018年11月

ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」(新潮社, 2005) 2556654 | 233日前

強制収容所の一日を描いた作品。たとえ強制収容所の苛烈な環境の中であっても、それが私たちの職能を示す限りにおいて、仕事は人間の魂を救済する。

ヴィクトル・ペレーヴィン「宇宙飛行士オモン・ラー」(群像社, 2010) 2556654 | 233日前

サリー・ガードナー「マザーランドの月」(小学館, 2015) 2556654 | 233日前

1954年の欧州が舞台で、ナチスとソ連を合わせたようなガチガチの監視社会が支配している。主人公たちがいずれ反社会分子として粛清されることは見えていて、主人公たちも十分過ぎるぐらいにそれを自覚しているのだけど、それでも人間らしく生きる(あるいは死ぬ)ことはできる、という物語。傑作だと思う。

アン・レッキー「叛逆航路」(東京創元社, 2015) 2556654 | 233日前

シヴォーン・ダウド「ボグ・チャイルド」(ゴブリン書房, 2011) 2556654 | 233日前

アイルランドを舞台とした青春小説。主人公の兄が(アイルランド独立という理想のために)刑務所でハンストを行う。母はとにかく子供に死んでほしくないと思うが、父は本人の意志を尊重しようとする。どちらが正しい選択なのか?「何もしないで後悔するより、何かをして後悔した方がよい」 (p430-431)

2018年10月

パオロ・バチガルピ「第六ポンプ」(早川書房, 2012) 2556654 | 264日前

ガイ・グリオッタ, ジェフ・リーン「キングズ・オブ・コカイン : コロンビア・メデジン・カルテルの全貌」(草思社, 1992) 2556654 | 264日前

この本の面白い逸話として、南米から麻薬を密輸する中継地点として栄えて、「高品質のコカインが無制限に手に入る」ようになった(ヤク中にとっての天国のような)島が出てくる。それで、どうなったかと言うと、ヤクをやりすぎた売人たちは誇大妄想と猜疑心に蝕まれて、誰もがボディーガードをつけて歩くようになったそうな。

2018年09月

ドン・ウィンズロウ「ザ・カルテル」(KADOKAWA, 2016) 2556654 | 294日前

ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」(文藝春秋, 2015) 2556654 | 294日前

リチャード・ブックステーバー「市場リスク 暴落は必然か」(日経BP社, 2008) 2556654 | 294日前

荒木映子「ナイチンゲールの末裔たち : 「看護」から読みなおす第一次世界大戦」(岩波書店, 2014) 2556654 | 294日前

この本で紹介された次の一冊は読んでみたい。著者は看護婦として第一次世界大戦に赴いた人。戦場で心身が無残に崩れ去ってしまった人々を、戦争の引き潮が残した「人間の残骸」と表現している。Ellen LaMotte 'The Backwash of War - The Human Wreckage of the Battlefield as Witnessed' (1916)